史書にいわく、霧深き森には魔女が棲むという。
伝承にいわく、魔女は強大な魔力を持つという。
風聞にいわく、其は疫病を誘う悪しき魔女なり。
白めく森の奥深く、少女は魔女に対峙した。
「あんたを絶対に許さない」霧に溶けるは少女の呟き。
「誰が許しを乞うたかしら」宙に浮かぶは魔女の囁き。
「あたしも魔女だ、あんたなんかに負けやしない!」
粗衣を纏った少女は叫ぶ。
手足の鉄枷が、怯えるようにじゃらりと鳴いた。
「今の貴方ではとても無理、ここは私の領域だもの」
濃霧を纏った魔女は諭す。
応じるようにして、霧がふわりと道の軌跡を描いた。
「早くお帰り、長く居れば戻れなくなってしまうから」
「帰る場所なんて、どこにもない」
少女は笑った。
「あんたを殺すまで、どこにも行かない」
第一章 著:蜂八憲